桑田佳祐が影響を受けた邦楽アルバム5選|サザンオールスターズのルーツを辿る

サザン基本情報

桑田佳祐といえば、サザンオールスターズのフロントマンとして、長年にわたり日本のポップロックシーンを牽引してきたレジェンド的存在です。

その魅力のひとつとして挙げられるのが、「ジャンルを超えた楽曲の幅広さ」。特に桑田さんの音楽性には、数多くの邦楽、中でも「歌謡曲」からの影響が色濃く感じられます。

本記事では、2017年に発売された『Pen』特集号「1冊まるごと、桑田佳祐。」の情報も参考にしながら、桑田さんがインタビューやライブ、そして自身の楽曲の中で言及してきた邦楽アーティストたちを紹介。そのルーツと、サザンおよびソロ楽曲とのつながりを紐解いていきます。


MAKI〜浅川マキの世界(1970年)

1970年に発売された浅川マキのファーストアルバム『浅川マキの世界』。

ジャズやブルースの空気をまとった演奏と、低く独特な歌声、そして都会の暗部を切り取るような世界観を持つ作品です。

Amazon.co.jp: 浅川マキの世界: ミュージック
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1970年リリースのファーストアルバム。曲間に浅川マキのインタビューを収録。新宿「蠍座」における実況録音部分の構成は寺山修司。

Pen 2017年 No.435「1冊丸ごと、桑田佳祐。」

2017年の『Pen』でも桑田さんの愛聴盤のひとつとして紹介されていますが、浅川マキへの関心は過去のものではありません。

2021年に行われた桑田佳祐「静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~」では、浅川マキの代表曲のひとつ「かもめ」をカバー。

2025年の『BRUTUS』では、桑田さん自身が、ここ数年で浅川マキを改めて聴き直し、写真のテイスト、声の魅力、そして彼女の成り立ちのようなものにに惹かれたと語っています。

興味深いのは、若い頃に聴いた音楽を単なる「懐メロ」として捉えているのではなく、70歳を目前にした現在でも新たな感覚で聴き直していることです。

個人的にも浅川マキの楽曲を聴くと、一般的な歌謡曲とは少し違う、ジャズやブルースと日本語の歌が溶け合った独特の空気を感じます。

洋楽のエッセンスを取り入れながら、最終的には日本語の歌として成立させる。そう考えると、浅川マキの音楽は、桑田佳祐の音楽と重なる部分があるようにも感じます。

また近年の桑田さんは、「歌詞」そのものに、これまで以上に深く向き合っているように感じます。近年の楽曲はもちろん、ラジオでの発言からも、そうした意識の変化がうかがえます。

もちろん直接的な影響を断定することはできませんが、浅川マキの音楽や言葉に改めて触れたことが、そうした意識に少なからず影響を与えているのかもしれません。


いしだあゆみ ベスト・アルバム(1973年)

1960〜70年代の歌謡曲を代表する歌手のひとり、いしだあゆみ。

『Pen』で桑田さんが取り上げた『いしだあゆみ ベスト・アルバム』には、代表曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」などが収録されています。

1973年のベスト盤。「ブルー・ライト・ヨコハマ」収録。「せつない可愛らしさがいい。作家と歌手の関係性にも惹かれました」(桑田)

Pen 2017年 No.435「1冊丸ごと、桑田佳祐。」

桑田さんといしだあゆみの楽曲との関係は、その後の活動を見ても非常に深いことが分かります。

サザンオールスターズは2005年発売のシングル『BOHBO No.5/神の島遥か国』に「ブルーライトヨコハマ」のカバーを収録。

また、2008年の「昭和八十三年度!ひとり紅白歌合戦」では「太陽は泣いている」を披露し、2018年の「第三回ひとり紅白歌合戦」では「あなたならどうする」をカバーしています。

一人の歌手の異なる楽曲を、長い年月をかけて何度も選んでいることからも、桑田さんがいしだあゆみの歌に強く惹かれてきたことがうかがえます。

いしだあゆみの楽曲の魅力は、派手に歌い上げるのではなく、どこか儚さや色気を残した歌声と、作曲家・作詞家が作り上げた世界観が一体となっているところにあります。

桑田さん自身も『Pen』では、歌手そのものだけではなく、作家と歌手によって作品が作られる関係性に魅力を感じていることを語っています。

サザンにも、桑田佳祐が作詞・作曲し、原由子が歌う楽曲が数多く存在します。

もちろん直接的な影響を断定することはできませんが、「作家が作った世界を、その歌手にしかない声で完成させる」という歌謡曲ならではの面白さは、桑田さんが長年大切にしてきたもののひとつなのではないでしょうか。


歌は生きている/美空ひばり ゴールデン・ヒット・アルバム(1965年)

桑田佳祐の邦楽ルーツを辿るうえで、美空ひばりは欠かすことのできない存在です。

『Pen』で紹介された『歌は生きている/美空ひばり ゴールデン・ヒット・アルバム』には、「車屋さん」をはじめとする楽曲が収録されています。

1965年のベスト盤。「車屋さん」収録。「ボブ・マーリーに匹敵する泥臭さとバンドのとがった演奏が迫力」(桑田)

Pen 2017年 No.435「1冊丸ごと、桑田佳祐。」

桑田さんは「車屋さん」をこれまで繰り返しカバーしています。

特に2016年に放送・制作された『THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~』では、「車屋さん」を収録。同作品自体が、桑田さん自身のルーツミュージックである日本の歌謡曲に敬意を込めて制作されたカバー作品としても披露されています。

さらに2000年の「桑田佳祐が選ぶ20世紀ベストソング」では、「真赤な太陽」と「リンゴ追分」の2曲を選曲。2008年の「ひとり紅白」でも「真赤な太陽」、2018年には「川の流れのように」を歌っています。

そして、さらに面白いのがサザンデビュー以前とのつながりです。

桑田さんが学生時代に作った「悲しみはブギの彼方に」には、

「ちょいとお待ちよ 車屋さん」

という一節が登場します。

同曲は長らく未音源化でしたが、2025年発売のサザンオールスターズ『THANK YOU SO MUCH』に正式収録されました。

20歳前後で作った楽曲の中に自然と「車屋さん」が入り込み、その約40年後にも改めて同曲をカバーしている。

そう考えると、美空ひばりをはじめとする昭和歌謡が桑田佳祐の中にどれだけ深く根付いているのかがよく分かるエピソードだと思います。


加山雄三 ベスト40(1976年)

1976年の2枚組ベスト盤。「君といつまでも」収録。「ずっと憧れの人。この頃のバンドが日本人の身の丈で奏でる演奏は秀逸」(桑田)

Pen 2017年 No.435「1冊丸ごと、桑田佳祐。」
Amazon.co.jp: 加山雄三 ベスト40: ミュージック
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桑田佳祐と同じ茅ヶ崎を代表する音楽家、加山雄三。

『Pen』では『加山雄三 ベスト40』が愛聴盤として紹介されており、桑田さんは加山雄三を長年憧れの存在として語ってきました。

桑田さんにとって加山雄三の魅力は、単に同じ茅ヶ崎出身のスターというだけではありません。

1960年代、日本人によるポップスやロックがまだ発展途上だった時代に、加山雄三は自らギターを弾き、曲を書き、日本語で歌うというスタイルを体現した存在でした。

2008年の「昭和八十三年度!ひとり紅白歌合戦」では代表曲「君といつまでも」を、2018年の「第三回ひとり紅白歌合戦」では「ある日渚に」を桑田さんがカバーしています。

筆者がここで特に興味深いと思うのは、洋楽への憧れと、日本人としてのポップスを両立している点です。

桑田さんも若い頃はビートルズをはじめとした欧米のロックに強く憧れながら、日本語で自分たちの音楽を作り上げていきました。

2025年の『BRUTUS』では、若い頃は「日本人っぽさ」を否定しながら欧米の音楽に憧れていた一方、現在では日本ならではの音楽や芸能の面白さが分かるようになったとも語っています。

その意味でも、洋楽のエッセンスを取り込みながら日本人のポップスとして鳴らした加山雄三は、桑田佳祐につながる重要な先人のひとりだったのではないでしょうか。


九ちゃんの唄 第2集(1964年)

そしてもうひとり、桑田佳祐の原点として欠かせないのが坂本九です。

『Pen』で取り上げられた『九ちゃんの唄 第2集』には、日本のポップス史を代表する名曲「上を向いて歩こう」が収録されています。

桑田さんは『Pen』の中で、加山雄三に憧れる以前には坂本九のような歌手になりたかったという趣旨の思いを語っています。

「上を向いて歩こう」は、2008年の「昭和八十三年度!ひとり紅白歌合戦」で桑田さん自身がカバー。61曲に及ぶ公演の中でも、序盤の4曲目という位置で披露されました。

さらに、坂本九へのリスペクトは近年のサザンにもつながっています。

2025年のアルバム『THANK YOU SO MUCH』に収録された「神様からの贈り物」は、日本のポップミュージックを作り上げてきた先人たちへの敬意を込めた楽曲。

その歌詞の中にも「上を向いて歩こう」という言葉が登場します。

1960年代に日本で生まれた「上を向いて歩こう」は、海外では「SUKIYAKI」として知られ、日本語で歌われたポップソングとして世界的な成功を収めました。

欧米の音楽に憧れながらも、日本語でしか作れないポップスを追求してきた桑田佳祐。

その原点のひとつに坂本九がいることを考えると、「上を向いて歩こう」という曲が桑田さんにとって特別な存在であることにも納得がいきます。

1964年リリース。「上を向いて歩こう」収録。「加山さん以前は九ちゃんになりたかった。永六輔さん、中村八大さんは天才」(桑田)

Pen 2017年 No.435「1冊丸ごと、桑田佳祐。」
Amazon.co.jp: 九ちゃんの唄 第2集(紙ジャケット仕様): ミュージック
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5枚から見えてくる、桑田佳祐の「和洋折衷」

今回紹介した5枚を並べてみると、桑田佳祐の音楽的ルーツにはひとつの共通点が見えてきます。

それは、海外の音楽をそのまま模倣するのではなく、日本人の声、日本語、日本独自の情緒と混ぜ合わせてきた音楽だということです。

浅川マキにはジャズやブルース。

加山雄三にはロックやエレキギター。

坂本九にはアメリカンポップス。

そして、いしだあゆみや美空ひばりには、作詞家・作曲家・演奏家・歌手が一体となって作り上げた日本の歌謡曲があります。

桑田さんは2018年のサザンオールスターズ公式インタビューで、デビュー当時は「サザンも歌謡曲」と括られることに抗っていた時期があったと振り返っています。

一方で、2025年には、洋楽を自分の中で表現するときにも、どこかで日本の歌謡曲が媒介になっていたのではないかと語っています。

若い頃は歌謡曲から距離を取ろうとしながら、長いキャリアを経て、その音楽が自分の中に深く根付いていたことを改めて認識していく。

この変化は、桑田佳祐の音楽を辿るうえで非常に面白い部分だと思います。

ビートルズ、リトル・フィート、エリック・クラプトンといった洋楽だけでなく、美空ひばり、加山雄三、坂本九、いしだあゆみ、浅川マキ。

その両方が混ざり合ったところに、サザンオールスターズ、そして桑田佳祐にしか作れない「日本のポップス」が生まれたのではないでしょうか。


📌 出典・参考データ


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