※本記事には、セットリストやライブの演出に関する詳細なネタバレが含まれます。これから公演に参加される方に向けた内容ではありませんので、あらかじめご了承ください。
セットリスト
<桑田佳祐 夏祭りツアー 2026 supported by カンロ>
Date:2026年7月8日(水)
Venue:石川県産業展示館4号館
- 明日晴れるかな
- 炎の聖歌隊 (Choir)
- HOLD ON (It’s Alright)【2026 Ver.】
- 黄昏のサマー・ホリデイ
- 南谷ミュージック・シティー
- 古の風吹く杜
- 若い広場
- 時代遅れのRock’n’Roll Band
- AKANE On My Mind〜饅頭怖い
- NUMBER WONDER GIRL 〜恋するワンダ〜
- ヨシ子さん
- 明日へのマーチ
- なぎさホテル
- それ行けベイビー!!
- 東京
- SMILE 〜晴れ渡る空のように〜
- 平和の街
- Soulコブラツイスト〜魂の悶絶
- 飴とミラーボール
- スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)
- 人誑し / ひとたらし
【アンコール】
- 真夜中のダンディー
- 月光の聖者達 (ミスター・ムーンライト)
- 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
- 祭りのあと
ライブレポート
※以下、ライブの演出に関する詳細なネタバレが含まれます。これから公演に参加される方に向けた内容ではありませんので、あらかじめご了承ください。
桑田佳祐、古希の“New 70s”が指し示す音楽人の現在地——『夏祭りツアー 2026』石川公演レポート
古希を迎えた桑田佳祐が、自らのソロキャリアに新たな旗印を掲げた。”New 70s”と銘打たれた全国ツアー『桑田佳祐 夏祭りツアー 2026』である。
70歳という節目を「集大成」ではなく「始まり」と捉えたこのコンセプトは、古希を迎えた日に公開されたティザー映像を皮切りに、さまざまな形で示されてきた。キャリア初となるアニメ主題歌の書き下ろしやCM・MVの公開、そして6月にリリースされた「人誑し / ひとたらし」。ツアー開幕までの数か月間、話題は途切れることなくファンの期待を高め続けた。
ソロ活動39年目、サザンオールスターズとしてはデビュー48年目。半世紀近く日本のポップ/ロック・ミュージックの最前線を走り続けてきた男が、70代でどのようなステージを見せるのか。その答えが示されたのが、ツアー初日となる石川公演だった。
会場には50代、60代の長年のファンを中心に、10代の若者から桑田と同世代の観客まで、幅広い世代が集まっていた。開演前には、最前列から始まったウェーブに周囲の観客が楽しげに応じ、客席には開演を待ちきれない高揚感が満ちていく。
定刻の18時30分。聞き慣れた開演前のアナウンスに続き、桑田を支えるバンドメンバーが静かにステージへ現れる。最後に桑田自身が落ち着いた足取りで登場すると、客席から大きな拍手が送られた。
やがて、柔らかなピアノのイントロが響き渡る。1曲目は「明日晴れるかな」。一つひとつの言葉を噛みしめるように桑田が歌い始めた瞬間、観客は一気にその世界へと引き込まれた。
ライブの重要な局面を担ってもおかしくない一曲を、あえて幕開けに置く。その意外性以上に印象に残ったのは、70歳になった桑田の声で歌われる言葉の深さだった。開演直後にもかかわらず、客席の多くが自らの想いに重ねるように聴き入り、会場は早くもクライマックスを思わせる感動に包まれていた。
続いて、「Sugar Baby Love」を思わせる重層的なコーラスが立ち上がり、力強いドラムとともに銀テープが宙を舞う。水色の光に染まった会場で始まったのは、「炎の聖歌隊[Choir]」だ。イントロに合わせて観客の手拍子が重なり、楽しげに歌う桑田の表情が大型スクリーンに映し出される。
〈時代の風に 波に あなたを乗せて走る〉
時代ごとに人々の日常を彩りながら、自らも第一線を走り続けてきた桑田佳祐が歌うからこそ、その言葉には特別な説得力が宿る。〈開演お待ちどうさん ご来場大変御足労さん〉——その呼びかけは、この日世代を越えて集まった一人ひとりへの歓迎の言葉として、鮮やかに響いていた。
2曲を終えたところで、最初のMCへ。「帰ってまいりました〜」という桑田らしい柔らかな挨拶で会場を和ませると、「新しい曲もたくさん織り交ぜていきます」と、この日のステージへの期待を膨らませた。そんな言葉に続いて披露されたのは、意外な形で生まれ変わった一曲だった。
3曲目の「HOLD ON(It’s Alright)」では、真っ赤なスクリーンに歌詞が映し出され、2026年仕様へと大胆に書き換えられた歌詞が披露された。AIをめぐる問い、世界で続く戦争、国会や政治情勢、さらには古希を迎えた自身についてまで、現在の空気を切り取る言葉が次々と織り込まれていく。メロディや楽曲の構成は原曲のまま、歌詞を今の時代へと差し替えたこのパフォーマンスは、桑田佳祐の批評精神とユーモアが今なお健在であることを強く印象づけた。
聞き覚えのあるオルゴール音が流れた後、軽やかなカウントを経て「黄昏のサマー・ホリデイ」へ。気負わず自然体で歌う桑田の姿に、こちらまで嬉しくなる。続く「南谷ミュージック・シティー」は、最新作からの新曲。サザンの若手時代に機材運搬を担い、長年にわたって舞台監督を務めてきた南谷成功氏をモチーフにした一曲である。
演奏後には、上半身裸で佇む若き日の南谷氏と、現在も真剣な表情で仕事に向き合う姿がスクリーンに映し出された。共に歩んできたスタッフにも光を当てるこの一曲に、桑田佳祐の人柄がにじむ。観客から送られた大きな拍手もまた、南谷氏が支えてきた時間そのものに向けられているようだった。
ここまでEmの曲が3曲続いていたことを桑田が明かすと、ステージはDを基調とした、より明るい楽曲群へと移っていく。
鎌倉の記憶をまとった「古の風吹く杜」では、街の風景と歌詞がスクリーン上で重なり、時を越えて受け継がれる土地の情景が会場へ広がった。続く「若い広場」を経て披露されたのは、「時代遅れのRock’n’Roll Band」。今回がライブ初披露となる。
桑田とコーラスのODYが歌い交わす後方では、佐野元春、野口五郎、Charら、この曲で共演した盟友たちの姿が次々と映し出される。Love & Peaceを掲げるメッセージは軽やかなポップスの形を取りながら、その中心には時代への切実な憂いがある。
〈One Day Someday/いつの間にか/ドラマみたいに時代は変わったよ〉
長い時間を音楽とともに歩んできたスターたちの姿を背景にこのフレーズが歌われることで、曲は単なる平和への願いを越え、時代の移ろいそのものを映すものになっていた。
中盤のMCでは、桑田が落語調の語り口で古典落語「饅頭怖い」の趣向を取り入れ、「何が怖い?」と斎藤誠、TIGERへ順に問いかけていく。最後にTIGERから同じ質問を返され、桑田が満を持して「饅頭怖い」と答えると、そのまま「AKANE On My Mind〜饅頭怖い」へとなだれ込んだ。
続く「NUMBER WONDER GIRL 〜恋するワンダ〜」を経て、サイケデリックな映像とともに始まったのは「ヨシ子さん」。近年のライブでは本編終盤を担ってきた定番曲が、今回は早くも中盤で登場した。ダンサーやレーザー演出が交錯する中、本編ラストで慣れ親しんだあのグルーヴに観客も難なく乗っていく。定番曲を大胆に配置換えしてくるこの構成もまた、”New 70s”を体現するかのような演出だった。
そして、昨年のサザンオールスターズのツアーに続き、今回も石川を初日の地に選んだ桑田の思いが伝わる場面が訪れる。
「石川への祈りを込めて歌います」という短い言葉に続いて披露されたのは、「明日へのマーチ」。東日本大震災以降、被災地に思いを寄せ、能登半島地震の発生後もその姿勢を変えることなく活動を続けてきた桑田。今回のツアー会場にも、本人の意向によって、被災した輪島朝市の店舗が「出張輪島朝市」として出店していた。ただ真摯に歌と人に向き合うその姿に、観客は温かな手拍子で応える。そのメロディと歌詞を受け止めるように、温かな手拍子が会場いっぱいに重なっていった。
続くMCで、桑田は近く発売される歌詞集について触れた。「絶対に買わないでくださいよ」——そう自虐的に笑いを取りながら、「そんないい歌詞でもないんだけど」と付け加える。なだらかなメロディのイントロから、「なぎさホテル」へ。そんな言葉とは裏腹に、歌唱からは楽曲への深い愛着がにじんでいた。ノスタルジーを湛えたサウンドが広がり、その歌声が客席を優しく包んでいく。
「それではここで一本締め」
桑田の掛け声に続き、石川への思いと未来への祈りを込めた一本締めが会場に響く。その余韻を引き継ぐようにメンバーが手拍子を始めると、桑田はグリーンのテレキャスターを手にした。
次の瞬間、「それ行けベイビー!!」のイントロが炸裂する。バンドメンバーはすぐには演奏へ加わらず、観客とともに手拍子で桑田を後押しする。桑田ただ一人がかき鳴らすギターに、メンバーと客席の手拍子だけが重なり、会場は一つの巨大なリズムの塊となった。やがてバンドの演奏が加わると、抑えられていた熱が一気に解放される。
続く「東京」では、雨が降り続く都会の映像とともに、孤独や切なさが会場を包んだ。そこから「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」へ移ると、景色は一転する。観客が手首につけたライトが一斉に輝き、雨上がりの空が開けていくような明るさが客席いっぱいに広がった。
さらに「平和の街」では、〈人生の旅はまるで雨のHighway〉〈いつの日か大好きな人に巡り会える〉と、人生の憂いやままならなさを抱えながら、それでも前を向いて歩いていく言葉が歌われる。
桑田佳祐の歌は、苦しさを無理に振り払おうとはしない。弱さや格好悪さ、クヨクヨする心まで受け止めたうえで、聴き手と同じ目線に立ち、そっと背中を押す。「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」、そして「平和の街」へと続く流れは、桑田の言葉がなぜ長く人々の人生に寄り添ってきたのかを、あらためて示すものだった。
「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」を挟み、ライブは怒涛のクライマックスへと突入する。
ミラーボールが回転を始めると、会場全体が妖艶な色彩に包まれた。この先どのような展開が待ち受けているのか、誰もが期待に胸を膨らませて見守るなか、イントロが鳴り響き、会場の熱気はさらに高まっていく。その曲は「飴とミラーボール」。〈お口にとける甘いフィーバー!!〉——約30秒の楽曲に身を委ねるのも束の間、最後に桑田がサタデー・ナイト・フィーバーのポーズを決めた瞬間、あの馴染み深いキーボードのメロディが響き渡った。
「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」だ。何度聴いても色褪せない洒脱なギターリフとともにダンサーたちが登場し、会場の熱気はみるみる高まっていく。サビで噴き上がるCO2、桑田のシャウト、ギターソロ、コール&レスポンス——この曲に仕掛けられたあらゆるポイントで、観客の興奮は一段と加速していった。曲が終わっても、客席の興奮は収まる気配を見せなかった。
そして会場が暗転すると、ステージの映像モニターに、ゆっくりと「人誑し」の文字が浮かび上がる。ドラムのカウントとともに、「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」の勢いを引き継ぐように、原曲以上にアップビートな演奏が展開されていく。イントロの時点で会場の熱気はこの日最高潮に達し、激しいドラムビートに合わせて、ジャンプしながら手拍子を送る観客の姿も数多く見られた。
〈Hey Baby!! Jump & Shout!!〉という初めての掛け声も、会場が一体となって響かせ、終盤には〈Hey! Hey! Hey!〉という新たなコールが交わされる。躍動感あふれる激しいドラムビートに乗せて、桑田は古希を迎えてなお、凄まじいエネルギーを観客へと叩きつけた。
演奏を終えると、桑田佳祐とバンドメンバーはスマートにステージを去っていく。本編のラストを飾ったのは、最新曲「人誑し / ひとたらし」だった。〈人誑し〉というタイトルそのものが、48年にわたって観客の心をつかんで離さない、桑田佳祐自身の自画像のようでもあった。怒涛のラストは、まさに一瞬。気がつけば、本編は幕を下ろしていた。
アンコールの幕開けは「真夜中のダンディー」。「こんな昔の曲、まだ聴くかい?」と歌詞をアレンジし、古希を迎えたことやファンへの感謝も織り込んだ特別なバージョンで届けられた。
「人誑し / ひとたらし」で最高潮に達した熱をそのまま受け継ぎ、客席からは大きな歓声が上がり、飛び跳ねる観客の姿も見られた。古希を迎えた男の余裕と貫禄、そして茶目っ気が同居するパフォーマンスに、「ダーンディ! ダーンディ!」という大合唱が響き渡った。
続く「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」では、桑田直筆と思われる歌詞がスクリーンに縦書きで映し出される。手書きの文字が持つ温度が、楽曲に漂う郷愁をいっそう深めていた。
そして、再び銀テープが宙を舞い、「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」へ。1987年のソロデビュー曲として誕生して以来、時代を越えてファンの人生に寄り添ってきた一曲だ。古希を迎えた桑田が、今もこの歌をステージで届けている。その事実を噛み締めるように、観客は歌い、踊り、最後の時間を分かち合っていた。
これで終演かと思ったところで、桑田が「終電があるので帰ります」とジョークを飛ばす。客席に再び期待が広がるなか、印象的なイントロとともに始まったのは「祭りのあと」だった。
この日を境に気温は一気に上がり、季節は駆け足で真夏へと向かっていた。まるでこの曲が、石川の空に夏の始まりを告げているかのようだった。ステージには浴衣姿のダンサーが登場し、しっとりとした余韻のなかに穏やかな幸福感が広がっていく。
〈終わらない夏に 誰かとめぐり逢う〉。
その一節は、ここから始まる「夏祭りツアー」の長い旅を予感させた。終盤、桑田が「5 times jump!」と声を上げると、観客は一斉に5回ジャンプ。夏の入り口で、70歳の桑田と会場中の観客が同じリズムで宙を舞う。晴れやかな余韻を残す、爽快な幕引きとなった。
最後の演奏を終えると、ステージを支えたメンバーが、いつものように一人ずつ紹介されていく。ダンサーを含めても、今回の編成はこれまでの桑田のソロライブと比べてコンパクトだった。しかし、その分だけ一人ひとりの音と呼吸がより鮮明に伝わり、ステージ全体にはライブバンドならではの生々しい躍動感が満ちていた。桑田自身が今歌いたい曲を選び、自らのペースで仲間たちと伸びやかに鳴らしている。そんな自由で風通しの良い空気が、この日のステージには終始流れていた。
かつて、「桑田佳祐の歌は、モテない人の目線で描かれているからいい」という話をよく耳にした。届かない恋や報われない思い、格好悪さや人間の弱さを歌ってきた桑田の言葉は、時を経てさらに広がり、今では人生のままならなさを抱える多くの人々に寄り添うものになったように思う。ライブ中には近く発売される歌詞集についての言及もあったが、今回のステージはまさに、桑田佳祐が長年紡いできた歌詞の力を改めて感じるものだった。時代を鋭く切り取る言葉もあれば、孤独や憂いを受け止め、そっと前を向かせてくれる言葉もある。その一つひとつが音楽とともに胸へ届き、明日を生きるための大きなエネルギーへと変わっていった。
古希という節目は、多くのアーティストにとってキャリアの集大成を示す年になるのかもしれない。しかし、桑田佳祐にとっての70代は、明らかに新たなスタート地点として設計されていた。歌詞の大胆な現代化、定番曲の意外な配置換え、ライブ初披露曲の解禁、最新作からの積極的な選曲、そして石川という土地へ寄せた祈り。そのすべてが、「自身を更新し続ける音楽人」としての桑田佳祐の現在地を鮮やかに指し示していた。
“New 70s”という旗印は、単なるキャッチコピーではない。それは、長きにわたって走り続けてきた男が、これからも音楽を鳴らし続けていくという、軽やかでありながら揺るぎない宣言なのだろう。ショーとしての鋭さと刺激にあふれながら、そこには確かな愛と情が宿っていた。格好良く、ユーモラスで、ときに不器用な言葉で人々の心に寄り添う。会場のみんなが大好きな桑田佳祐が、この夜も変わらずステージに立っていた。
時代の風を受け止め、その空気を音と言葉に乗せながら、仲間とともに鳴らし続ける。桑田佳祐というアーティストは、やはりロックバンドという生き方そのものを体現する存在なのだと、改めて胸に刻まれる夜だった。
桑田佳祐の“New 70s”は、まだ始まったばかりだ。

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