私自身、サザンオールスターズや桑田佳祐さんの音楽に向き合うようになって10年以上が経ち、バンド・ソロ両方の活動を追いかけてきた。そして今回、かなりの倍率だったと思われる中、運良くチケットが当選し、「九段下フォーク・フェスティバル’25」を迎えることができたのだが、その内容は想像を良い意味で裏切るものだった。
正直、桑田さんが「ひとり紅白歌合戦」や「JAZZと歌謡曲とシャンソンの夕べ〜R60」の時のように、自身の好きなテーマを絞って「フォーク」を歌うようなイベントだと思っていたのだ。それはそれでとても楽しみだったが、結果的に“サザン桑田佳祐史”に太字で大きく刻まれるコンサートイベントになったことは間違いない。
今回は、そんな伝説に残る「九段下フォーク・フェスティバル’25」の当日の模様を、この記事でレポートしていきたい。当日のセットリストを聴きながら、イメージしながら読んでもらえると嬉しい限りである。
ライブレポート
まず最初に登場したのは、TOKYO FM「BLUE Ocean」のパーソナリティであり、「やさしい夜遊び」でもお馴染みの住吉美紀。住吉さんから場内の注意事項が伝えられた後、前座として田内淳也が「深川のアッコちゃん」を披露し、会場には温かい空気が広がった。そして、いよいよ桑田佳祐がステージに登場した。
1〜2曲目【桑田佳祐】吉田拓郎の唄で幕を開けたフォークフェス
1曲目「今日までそして明日から」は、桑田さんのマーティンのギターから始まった。これまで「やさしい夜遊び」で幾度も名前が挙がってきたフォーク界のレジェンド 吉田拓郎の名曲からスタート。毎週番組を聴いている人なら、この曲をやるかもしれないと想像できたかもしれない。誰の曲でも自分の歌にしてしまう桑田さんのいつもの落ち着く声と、拓郎の歌の持つ“フォークの良さ”に酔いしれながら、「九段下フォークフェスティバル」が幕を開けた。
続いては、1週前の「やさしい夜遊び」公開収録でも披露されていた「明日へのマーチ」。会場全体が手拍子に包まれながらライブが本格的に始まっていく。曲が進むにつれて、手拍子の音が大きくなっていった気がする。この曲を2曲目に持ってきたことで、「あ、サザンや桑田佳祐名義の曲もやるんだ」と、安心と嬉しさが込み上げたファンも多かったのではないだろうか。
ここ最近、桑田さんは「九段下フォークフェスティバル」について、「やさしい夜遊び」で“つまらないと思います”“リハーサルしててテンションが上がらない”などと冗談交じりに話していた。もちろん冗談だと思いながらも、その意味を深く考えていなかった。というのも、桑田佳祐ほどの存在になると、近年のライブでは「ゲストを呼ぶ」という概念自体があまりなかったからだ。
確かに昔は、1995年の『スーパーライブ in 横浜〜ホタル・カリフォルニア』で西城秀樹さん、2006年の「THE 夢人島 Fes.」では、ONE OK ROCKや福山雅治さんを迎えていたりと、自身主催のフェスを行っていたが、それはもう昔の話である。
個人的にはここまでの流れだけでも十分満足だったが、ここからベクトルが大きく変わっていく。
3〜6曲目【あいみょん & 桑田佳祐】
2曲目が終わりMCに入ると、いつもの軽妙なトークが始まるかと思いきや、最近のラジオでの発言を撤回するような一言が…。「フォークしかやりません。だから、君はロックを聴かない…」という意味有りな言葉とともに、観客からざわめきが起こる。
そして、あのイントロが――「君はロックを聴かない」。まさかのあいみょん登場に、会場のボルテージは一気に高まる。さらに桑田さんがコーラスに加わるというサプライズ。30分前には誰も想像していなかった出来事に、ただただ驚くしかなかった。
続いてあいみょんが好きだという「悲しみは雪のように」(浜田省吾)、さらに打ち合わせ時に桑田さんからあったリクエストで「偽物」を披露。「歌もそうなんだけど、歌詞も好きでね」と桑田さんが語っていた通り、リアルな恋を描いた歌詞が印象的で、あいみょんの楽曲を深掘りしたい欲求に駆られた。
あいみょんが両手でハートのサインを桑田さんに送ると、桑田さんが少し照れたように微笑む姿が印象的だった。「白い色は恋人の色」を桑田コーラスで歌い、名残惜しくもあいみょんはステージから去る。
7曲目 【桑田佳祐】多幸感に包まれる「SEA SIDE WOMAN BLUES」
あいみょんがステージを去ると、再び桑田さんバンドのターンへ。サザンオールスターズの「SEA SIDE WOMAN BLUES」からスタート。個人的には、イントロのギターの音色で心がときめき、癒され、桑田さんの歌が心地良く、今回のライブでも良かったなと思える楽曲の1つである。仕事や日常で溜まった疲れを癒してくれるようなギターの音色と、独特の言葉選びに改めて“桑田佳祐の歌詞の凄さ”を感じ、桑田さんの歌に酔わされていく感覚が続いて多幸感に包まれた。
8〜11曲目【桜井和寿 & 桑田佳祐】2006年以来のレジェンドの共演
そして、次に登場したのは桜井和寿。会場中から歓声とどよめきが巻き起こり、ボルテージはさらに上昇した。「ケンとメリー」を歌い続けるものの、驚きを隠せない観客が周辺にも非常に多かった印象だった。
2006年のフェス以来となる共演で、「HANABI」のイントロが流れた瞬間、観客の表情が一斉に変わる。――このライブで今まさに“とんでもないこと”が起きていると、ようやく実感が追いついてきたのだろう。(私自身も、ゲスト2人目が桜井和寿となれば、この後どうなるんだ…?と一気に期待が高まった。)
「もう一回、もう一回!」とコール&レスポンスを促す桜井さんに、桑田さんがコーラスで応える。
MCでは、過去の番組やライブでの思い出話に花を咲かせつつ、桜井さんが好きな曲としてサザンの「慕情」をデュエット。デビュー当時、Mr.Childrenとサザンのプロデュースを手がけていた小林武史さんのレコーディング現場で聴いて、深く印象に残った曲だという。(ちょうどミスチルのデビュー時期と、サザンの「世に万葉の花が咲くなり」の制作が重なっていた。)桜井和寿の繊細ながら力強い高音が、慕情の雰囲気と非常にあっており、桑田さんが歌う曲とは、また違う楽曲の良さが現れていた。
そして、話題が“最近モノマネされすぎて腹立たしい(笑)”というトークで盛り上がったのちに、青と白のライトが一気に輝き、「奇跡の地球」へ――。
まさかこの二人の「奇跡の地球」が聴けるとは。調べたところ、実に19年ぶりの披露とのこと。YouTube上でしか観れず、過去のものになっていた楽曲が、令和のこの時代に息を吹き返した感覚があり、ただただ凄いものを見ている感覚に襲われた。次にこの瞬間を目にできるのは、いったいいつになるのだろうか。
13〜15曲目【原由子 & 桑田佳祐】
桜井和寿がステージを去ったのち、桑田さんは茅ヶ崎の大先輩・加山雄三の「夜空の星」(12曲目)を披露。
続いて、3人目のゲストとして原由子が登場した。ギターを肩にかけた原坊が「いちょう並木のセレナーデ」を歌い、次にハンドマイクで「花咲く旅路」を披露。さらに、最近ではNHKで桑田さんと桑子アナウンサーと共演して披露していた、日本語バージョンの「風に吹かれて」も歌われた。
ようやく“フォークフェス”の名にふさわしい代表的なフォークソングが登場したわけだが、「風に吹かれて」はRCサクセションの忌野清志郎もカバーしている通り、プロテストソングとして知られている。桑田さんの音楽には「ピースとハイライト」など、社会や平和をテーマにした曲も多く、ボブ・ディランをはじめとするフォークの影響を確かに感じさせる場面だった。
桑田さんと原坊の息の合ったステージに、会場は温かい空気と拍手に包まれた。
16曲目【桑田佳祐】
続いて「ヨイトマケの唄」。サザンファンにとっては『POP OF THE POPS』収録でお馴染みの曲だが、この日の中でも特に心に沁みる一曲だった。母の働く姿と、それを見つめる子どもの思いを描いた歌詞が、桑田さんの力強くも優しい声によってさらに深みを増す。美輪明宏の世界観ながらも、自分自身や観客の方々も「家族への愛」と重ねて聴けるからだろうか、「愛と信念」が透けて見えるような、感動的な歌唱だった。
17〜19曲目【吉井和哉 & 桑田佳祐】
原由子が「花咲く旅路」を歌った際、伊右衛門のCMに触れた流れで桑田さんがイエモンに言及していたため、「これはもしかして…」と思っていたら、やはり吉井和哉(ロビン)が登場!
ロッキンでの出会い以来、桑田さんがラジオでもたびたび名前を挙げていた吉井さんとの待ちに待った再共演だ。
「太陽が燃えている」では桑田さんがコーラスを担当。幻を見ているような気分になったほどの興奮だった。流石、桑田佳祐ファン。私はイエモンのライブも何度か訪れているが、イエモンのライブ同様の盛り上がりを見せていた。
続いて「東京」をディエットで披露。桑田佳祐のソロのライブで見るような激しいライトの演出があった中、吉井さんの歌い方が不思議と桑田さんの曲に馴染んでいて、まったく違和感がなかった。この「東京」も吉井和哉が桑田佳祐に打ち合わせ時にリクエストした楽曲ということで、リスペクトの詰まった楽曲となった。
MCでは、吉井和哉のドキュメンタリー映画の話や、お互い癌を戦い抜いたガンサバイバーであることにも触れ、最後は「みらいのうた」を披露し、ステージを後にした。本来は吉井さんのソロツアーで初披露する予定だったが、こちらは桑田さんからのリクエストで、この日が初演となった。
20曲目〜22曲目【各ゲスト & 桑田佳祐 】
さらに「悲しくてやりきれない」では桜井和寿が再登場し、「あの素晴らしい愛をもう一度」では吉井和哉も加わるという豪華セッションに。吉井さんがシャイなのか、緊張しているのか、桑田さんと距離を置いたり、照れているシーンも垣間見れた。桑田さんが吉井さんにもうちょっとこっちに来いよという感じで、仲睦まじいやり取りだった。このメンバーで、この日本の名曲を聴けるのも恐らく最初で最後なのではないだろうか。桜井さんと吉井さんが去ったのちには、あいみょんが再登場し、こちらも名曲「なごり雪」を熱唱した。
23~26曲目【竹内まりや & 桑田佳祐 】レジェンドたちの初ステージ
そしてラストゲストは竹内まりや。
ゆっくりとステージに歩いてきた竹内まりやに、大きな歓声が沸き起こる。いきなり披露されたのは「元気を出して」。その瞬間、観客は「九段下フォークフェスティバル」の凄さを確信し、多幸感に包まれる空間となった。
続く「Two of Us」では、まりやさんがポール、桑田さんがジョン役に。ちなみに、まりやさんは桑田さんのことを終始「佳ちゃん」と呼び、弟のような存在に感じるとのことだった。しかも、まりやさんの弟は桑田さんと同じ2月26日生まれで、青学のベターデイズに所属していたということでさらに驚き。逆に桑田さんは、まりやさんはお姉ちゃんのようと話しており、そんな二人の息の合った演奏が印象的だった。
また、まりやさんは桑田さんの楽曲の中でも「慕情」や「東京」が大好きな曲だそうで、「今日は二人のカズくん(桜井和寿・吉井和哉)が歌ってくれて本当に嬉しかった」と語っていた。
まりやさんは、ちょうど桑田さんが大病を患ったというニュースを耳にした頃、スーパーマーケットで偶然聴いたサザンオールスターズのある曲に涙したという。その時、「桑田佳祐は絶対に戻ってくる」と確信したそうで、とても心に残っている曲だと語った。
その曲は「涙のキッス」。
この日のステージで披露されたそのハーモニーは、本日の中でも個人的にはベストアクトだったかもしれない。音源化してほしいほど感動的な歌唱だった。
今回、ツアー中の達郎さんは不在だったが、、もし達郎さんがツアー中でなければ、きっと達郎さんも加わっての共演が見られたかもしれない——そんな夢も膨らむひと幕だった。
最後には、竹内まりやの「由子ちゃん!」の呼びかけもあり、原由子が再登場。桑田佳祐と原由子のコーラスとともに、「静かなる伝説レジェンド」で、力強く歌い上げ、「九段下フォークフェスティバル」の本編は終了した。
27〜30曲目【桑田佳祐 & ゲスト全員】アンコール
アンコールの後、桑田さんが全ゲストを呼び込み、「夢のカリフォルニア」(ママス&パパス)を全員で歌い上げた。そして最後は観客とともに「今日の日はさようなら」を大合唱し、ゲストたちと揃って観客へ挨拶。拍手の中、ゲストたちはステージを後にした。
「今日の日はさようなら」がラストナンバーかと思いきや、ギタリストの斎藤誠さんがエレキギターを背負い、まだステージに残る桑田さんの口から「最後の一曲を」との言葉が。
ライブの締めくくりにふさわしい、勢いの中にも切なさを感じるあのイントロが流れる——「祭りのあと」だ。桑田さんは一音一音を噛みしめるように歌い、観客は総立ちで手拍子を送り続けた。サビのウェーブが会場の一体感と、終わってしまうことへの名残惜しさを包み込みながら、「九段下フォークフェスティバル」は、大きな拍手喝采と共に幕を閉じた。
今回の「九段下フォークフェスティバル」は、桑田佳祐のキャリアにおいて新たな基軸となるような、まさに伝説的な一夜だったと感じる。長年にわたり第一線を走り続けてきた桑田さんにとって、このような特別なイベントを開催すること自体が容易ではないはずだ。それでも今回のステージでは、音楽の原点に立ち返るような温かさと桑田佳祐の挑戦する姿勢が溢れていた。
ぜひ今後も、「九段下フォークフェスティバル」のように、桑田佳祐の音楽の魅力を改めて感じられるイベントが続いていくことを願っている。桑田さんの紡ぐ音楽の力と、その場に生まれる一体感が、再び新たな伝説を生み出していくに違いない。
セットリスト
- 今日までそして明日から(吉田拓郎)/桑田佳祐
- 明日へのマーチ(桑田佳祐)/桑田佳祐
- 君はロックを聴かない(あいみょん)/あいみょん&桑田佳祐
- 悲しみは雪のように(浜田省吾)/あいみょん&桑田佳祐
- 偽者(あいみょん)/あいみょん&桑田佳祐
- 白い色は恋人の色(ベッツイ&クリス)/あいみょん&桑田佳祐
- SEA SIDE WOMAN BLUES(サザンオールスターズ)/桑田佳祐
- ケンとメリー~愛と風のように(BUZZ)/桜井和寿&桑田佳祐
- HANABI(Mr.Children)/桜井和寿&桑田佳祐
- 慕情(サザンオールスターズ)/桜井和寿&桑田佳祐
- 奇跡の地球(桑田佳祐&Mr.Children)/桜井和寿&桑田佳祐
- 夜空の星(加山雄三)/桑田佳祐
- いちょう並木のセレナーデ(原由子)/原由子&桑田佳祐
- 花咲く旅路(原由子)/原由子&桑田佳祐
- 風に吹かれて(日本語Ver./ボブ・ディラン)/原由子&桑田佳祐
- ヨイトマケの唄(美輪明宏)/桑田佳祐
- 太陽が燃えている(THE YELLOW MONKEY)/吉井和哉&桑田佳祐
- 東京(桑田佳祐)/吉井和哉&桑田佳祐
- みらいのうた(吉井和哉)/吉井和哉&桑田佳祐
- 悲しくてやりきれない(ザ・フォーク・クルセイダーズ)/桜井和寿&桑田佳祐
- あの素晴しい愛をもう一度(加藤和彦・北山修)/桜井和寿&吉井和哉&桑田佳祐
- なごり雪(イルカ)/あいみょん&桑田佳祐
- 元気を出して(竹内まりや)/竹内まりや&桑田佳祐
- Two Of Us(The Beatles)/竹内まりや&桑田佳祐
- 涙のキッス(サザンオールスターズ)/竹内まりや&桑田佳祐
- 静かな伝説(竹内まりや)/竹内まりや&原由子&桑田佳祐
〜アンコール〜 - 夢のカリフォルニア(ママス&パパス)/全ゲスト&桑田佳祐
- 今日の日はさようなら(森山良子)/全ゲスト&桑田佳祐
- 祭りのあと(桑田佳祐)/桑田佳祐
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